KANAKO LIVE  
1999.12.7 一部上演台本

歌詞には著作権があります。無断使用は絶対にしないで下さい!!!

女 いさらい香奈子  男 佐藤三樹夫    新宿御苑・ビプランシアターにて

                   ある店。テーブル、イス。小さなクリスマスツリーがチカチカしている。
                        男(この店のマスター)がギターを弾いている。
                       ドアが開き、女が入ってくる。

        女     「遊ぼうよ、ヴィアン・ムッシュ」

雨降る夜はお客がこない こっちの気分も乗らなくなるわ  
そこでお酒を飲んでるあなた 私の部屋で ねぇ 遊ぼうよ
時間は片手 泊りは両手 あたしの身体は値が張るけれど
あんただったら タダでもいいわ ベットの上で ねぇ 遊ぼうよ

優しくするから 本気で抱いてよ
寂しくて 悲しくて 泣くかもしれない
お酒は涙の捨て場にならない 
娼婦だって慰めを買いたくなるのさ       
   …ヴィアン・ムッシュ…ヴィアン

愛し疲れて 眠ってしまう 二つの身体を重ねたままで
明日は来ない 来る筈ないと 思って今夜は ねぇ 遊ぼうよ
…ラララ…
ねぇ 遊ぼうよ…

              あいかわらず暇ねぇ…。雨は降ってきちゃうし、今日はこれで終わりかなぁ。

                  男が立ち上がり飲み物を出そうとするが

               いい、いい、勝手知ったる他人の店。(と、ワインのボトルを取り、二つのグラスにワインを注ぐ)
               乾杯!!!(などと言い、すでに酔っている様子)
               そう、ねぇねぇ、聞いてよ!凄かったんだから。

           「真夜中の居酒屋」     

昨夜の事なの いつもの所でお客を引いていると
そう あんたも知ってる角の古い居酒屋の前よ
いつも変わらぬアコーディオンの音に混じって
突然 ギャーという悲鳴!
おやまぁ よろい戸が閉まったの

男達が言ってたあの噂は…
「サツにたれ込んだ奴がいる!」あの噂は
どうやらホントで仕返しに来た
男達で店は大騒ぎ!!!

ドタン バタン ガシャン ドシン そりゃひどい音で
ぴっぱだく音 せっぱつまった声 悲鳴が混じるの
グラスが割れ 血が流れて そりゃひどい筈
怖いけど見たいのに
おやまぁ よろい戸が閉まってる

しばらくはそんな風で突然の沈黙…
シーンとした時間の中で ドスン! それでおしまい
しばらくするとね 裏口から 死体を引きずった男達が
セーヌの方へと

お店はまた よろい戸開けて平常営業
アコーディオンは鳴り出すし みんなすました顔
何も見えず悔しかったけど あたしも平常営業
みんな楽しそうな顔して
おやまぁ 夢でも見たのかしら
…ラララ…

女  ねぇ、芝居みたいでしょう…本当、びっくりよ!

(ワインを飲み干し、二杯目をグラスに注ぐ)

そうそう、芝居っていえばさぁ、観に行ったのよ、芝居。
あっ、ガラじゃないって言いたいんでしょ!
まぁ、そうなんだけど…。
この前、ゴールデン街で飲んでたのよ。あの日は早い時間から客がついて、稼ぎもまぁよくて、結構いい気分だったの。ルンルンってな感じで飲んでたらさ、隣で暗ーい顔した女が一人で飲んでんのよ。
こっちはいい気分だったし、「なーんかあったの」なんて声掛けたらさ、なんかどっかの劇団の女優だったのよ。
もうすぐ公演があるんだけど、ぜんぜんチケットが売れてないんだって。
あそこら辺多いよね、そういうの。
なんて劇団だったかなぁ…う〜ん、シアター…2たすいち…じゃないや
シアター2+1!マスター知ってる?知らないよねぇ…。
なんか西荻窪でやるって言うから一枚買ってやったのよ。
なんてあたしって優しい女なのかしらん。
なんだか気が合っちゃって、二人で朝まで飲んじゃった。
まぁどうして役者ってあんなにお酒、強いのかしら、ホント。(ワインを飲む)  
で、まぁ暇だったんで観に行ったのよ。ぜ〜んぜん期待してなかったんだけどこれが、面白かったのよ。(ワインを飲み、三杯目をグラスに注ぐ)  

“楽屋”って芝居なの。
舞台が闇になると、懐かしい音楽が流れてきて、舞台の上にある
何枚もの鏡がぎらぎらと光り出すの。そして、鏡がささやくの。

「…日々の命の営みが時にあなたを欺いたとて悲しみを又いきどおりを抱かないで欲しい。
悲しい日々には心を穏やかに保てば、きっと再び喜びの日が訪れようから。
…心はいつも行く末の中に生きる。
今あるものはすずろに淋しい思いを呼び、人の世のなべてのものは、束の間に流れる。
そして、流れ去るものはやがて懐かしきものへ…」

女4人が登場するんだけど女優が女優を演じるの。
まぁ、女優の業みたいなものを書いた芝居なんだけど、
なんだかさぁ、身につまされちゃって。お互い夢を売る商売だしね。
まぁ残酷な仕事なわけよ。女というものをすべて武器にして戦って、
一瞬の絵空事の愛のために生きて行く。心も身体も裸にして…
オンナを仕事にしてしまったってヤツ?(ワインを飲む)

女優A、Bは幽霊なの。
一度も主役になれなくて、そのことが心残りで成仏できない幽霊女優たち。
よく、楽屋って出るっていうじゃない?
その楽屋で毎晩、永遠にやってこない出番を待ち続けているの…。
女優Cは、生きている女優で、その劇場でチェーホフの“かもめ”の主役ニーナを演じているの。ニーナは若い女の役なんだけど、彼女は40過ぎ。
まっ、頑張ってやり続けているって感じ。
女優Dは、やっぱり主役を夢見ている若い女優なんだけど、心…ってゆうか
精神がおかしくなっちゃって、自分を主役のニーナだと思い込んじゃって、
先輩の女優Cに役を返せと詰め寄るの、枕を持って…。

(“楽屋”より 女優Cの台詞)
ふざけんじゃないよ、まったく!
あんなチンピラ女優に馬鹿にされてたまるか!
ハハ…枕と交換に役をくれ?背中の骨がガタガタいって笑っちゃうよ!
けっ、よく言うよ!
「私達みんな思っているんです。早くあんな残酷な仕事から解放してあげなくちゃいけないって…」
世の中いくら解放ばやりだといったってね、あたしまで解放されたんじゃたまんないよ!冗談言うなってんだ!

あんた、相手が悪かったんだよ、枕ぐらいで迫ったってダメ、
あたしの心臓にはヒゲが生えているんだから。
そりゃねえ、女優20年、だてに年齢はくっちゃいないんだよ…
あんたなんて、体験したことないだろ、この髪の毛の、毛穴という毛穴から
じわっと血が噴出すような思い…あたしゃ何十回となく味わっているんだよ…
わかるはずはないさ、毛穴全部から血が噴出す感じ…相手を刺すか、自分が死ぬか…あんた、人間が吼えるのって聞いたことある?
わめくとかののしるとか、そんなんじゃないんだよ、吼えるんだよ…
アパートのトイレにこもって…ひとり…一晩じゅう五時間も六時間も…
あれは人間じゃないよ、猛獣の吼え声よ…のどかかれるたんびに手洗いの水飲んで…吼えて吼えまくって…おかげで、前より段々声が出るようになってさ…つまり蓄積…へどの出るような…

「ジョリー・モーム」(きれいな女)

コートを脱げば下は裸 ジョリー・モーム
安い夢を売って歩く ジョリー・モーム
男達をたらし込むよ ジョリー・モーム
身体だけが元手なのさ ジョリー・モーム

甘く香る巷のバラ 狂い咲きの野中のバラ ジョリー・モーム
朝が来れば役目が済む 男達の慰みもの ジョリー・モーム

心の中は砂と埃 ジョリー・モーム
頭の中はもぬけの殻 ジョリー・モーム
身体はいつも男を待つ ジョリー・モーム
甘い声で歌うヴィオロン ジョリー・モーム

偽の恋を切り売りして 男達を手玉に取る ジョリー・モーム
ネオンの下でもてはやされ 朝が来れば役目が済む ジョリー・モーム

男達の遊び道具 ジョリー・モーム
夢が醒めリゃ忘れられる ジョリー・モーム
水はいつか枯れる泉 ジョリー・モーム
鍵の取れた部屋の扉 ジョリー・モーム

風に吹かれ 足に踏まれ 見捨てられた秋の枯葉 ジョリー・モーム
今にみんな避けて通る 老いた犬に成り下がるさ ジョリー・モーム

コートを脱げば下は裸 
コートを脱げば下は裸 
コートを脱げば下は裸 ジョリー・モーム

また。来年の2月の頭に公演するみたいだから 、
今度一緒に行こうよ、ねえ!
(ワインを飲み干し、4杯目をグラスに注ぐ)

クリスマスかぁ〜。
あたしね、十八のクリスマスに真っ赤なハイヒールプレゼントされたの。
「いつまでも赤いハイヒールの似合う女でいてくれ」って。
「十年後のクリスマス、二十年後のクリスマス。君がどこにいても送り続けるから…」って。
気障だよね〜。
う〜ん…違う意味で似合う女になっちゃったけどね。
あれ、バレエ映画だっけ?
赤い靴を履いた踊り子は死ぬまで踊り続けなくちゃならない話…。
(ワインを飲む)

“かもめ”のニーナもね、女優に憧れている田舎娘なの。
作家志望の幼なじみと恋人同士なんだけど、ふとやって来た有名な作家に
夢中になって、女優になるため、恋のために何もかも捨てて
都会に出で行ったんだって…。
でも、その作家にとっては、ほんの短編の素材。
撃ち落され傷ついた、きれいなかもめのような…。

(“かもめ”よりニーナの台詞)
さぞ私を憎んでいらっしゃるでしょうね、それが怖かったの、トレープレフ。
毎晩同じ夢を見るのよ、それはあなたが私を見ているくせに私と気づかないの、この気持ち知って下さったらねぇ。
ここに着いたその日から、私は湖のへんを歩いていたの。
お宅の近くにもたびたび来たけれど、入る勇気がなかったわ。
さっ、座りましょう、座って、どうぞ。
ここわいいわ、ぽかぽして、居心地が良くって…。
あの音は?風ね…ツルゲーネフにこんなところがあったわ、
「こういう晩にうちの屋根の下にいる人は仕合せだ、暖かい片隅を持つ人は」
・・・わたしはかもめ、いいえ、そうじゃない、何を言ってたんだっけ、そう、
ツルゲーネフね…
主よ、願わくば、すべてのよるべなきさすらい人を助けたまえ…

「初恋のニコラ」

なんでもないのよ 古びたシャンソン
昔の男の子 思い出しただけよ
何もかもが 上手く行かず 灰色の時 
記憶の中 よみがえるの 私のニコラ

# ニコラ ニコラ 最初の私の涙
   夏のあの日 二人とも子供だった
  ニコラ ニコラ 気づかないでいたけれど
   あれが恋よ 小さな胸苦しめた

今夜もパリでは 冷たいみぞれ
大きな目の男の子 川岸で泣いていた
こんな夜に何故私が 歩いてるのか
男達は知っているわ なにもかも

*ニコラ ニコラ 私はもう戻れない
  汚れ知らぬ 栗色の髪の娘に
  ニコラ ニコラ いつでも人生なんて
  こんなものね 思うようにならないわ

#  くりかえし
* くりかえし

女  いつからだろう…。自分を一番好きになっちゃったのは…。
     自分を商売道具にしているんだから、しょうがないね。でも…。

「愛の讃歌」

   
あなたの燃える手で 私を抱きしめて
     ただ 二人だけで生きていたいの
     ただ 命の限り 私は愛したい
      命の限りに あなたを愛するの

頬と頬寄せ 燃える口づけ かわす喜び
あなたと二人で暮らせるものなら 何にもいらない
何にもいらない あなたと二人で生きてゆくのよ
私の願いはただそれだけよ あなたと二人

固く抱きあい 燃える指に髪を 
絡ませながら いとしみながら
口づけをかわすの 愛こそ燃える火よ
私を燃やす火 心とかす恋よ

女   あたし、この仕事好きよ。本当、好き!
     明日から、バリバリ稼ぐぞ〜!
     稼ぎ時よ。年末だし、クリスマスだし、2000年だし!ハハッ、関係ないか!!!
     あたしを必要としている人がいる限り…。
     さっきの“楽屋”って芝居ねえ、
     やっぱりチェーホフの“三人姉妹”の台詞で終わるのよ。

     (“三人姉妹”よりオリガの台詞)
     音楽はあんなに楽しそうに鳴っている、
     あれを聞いていると、生きていたいと思うわ!
     まあ、どうだろう、やがて時がたつと、私たちも永久にこの世に別れて
     忘れられてしまう。
     私たちの顔も、声も、何人姉妹だったかということも、みんな忘れられてしまう。
     ああ、かわいい妹たち、私たちの生活は、まだおしまいじゃないわ。
     生きて生きましょうよ、音楽はあんなに楽しそうに鳴っている、あれを聞いていると
     もう少ししたら、何のために生きているのか、何のために苦しんでいるのか、
     わかるような気がするわ…それがわかったらねぇ…それがわかったら…。

            「ミロール」

              おいでよ  ミロール!あたしの部屋 気楽に足を投げ出して
                聞いてあげる あんたの悩み 女と仕事の愚痴でもね
                  あたしは ミロール!男たちの孤独癒す 天使なのさ

                  生きていれば 辛いことや 腹の立つこと 悲しいこと
                  いやと言う程 たくさんあるわ あたしだって 悩みもある
                  たまにゃ愚痴も 言いたいけど 酒を飲んで 夢を見るのさ

だから ねぇミロール!元気出して くよくよしてちゃはじまらない
空をごらん 星が瞬き あんなにきれいな大宇宙
あたしは ミロール!いつも星に 願いかけて生きてるのさ

広い宇宙 広い地球 そこに生きてる 人間様
蟻のようだわ なんてちっぽけ まして あたしの悩みなんて
取るに足りない ちいさな事 風に吹かれりゃ 消えてしまうわ

乾杯 ミロール!二人だけの一夜限りの大パーティ
歌いましょう 踊りましょう 今夜はミロール すべて忘れ
あたしは ミロール!あんたの為に 道化役者に なってあげる

(“楽屋”よりホイットマンの詞)
そりゃ、いろんなもの犠牲にしたさ、でもすべては納得ずく…
戦いは果てしなく、鏡の中のわが戦士…

…ラララ…
ブラボー ミロール!!!

ワインを一気に飲み干す。

女  あ〜あ、飲んだ飲んだ。まだ降ってるのかしらん、雨…。
     雪になってるかも…ね。
     あ〜、眠くなっちゃった。マスター、30分だけ寝かせて…30分…。

     「はなやかな町…まずしい都…囚われの心…あでやかなる姿…あでやかなる姿…」か…。
     (女、寝てしまう)

男、歌い始める

   「愛は何処にある」

愛は何処にある それが不思議
愛は何処にある いつか不思議
テレビのニュースを パチンと消して
あなたは小さな 溜息をつく

愛は何処にある それが不思議
愛は何処にある いつか不思議
愛は何処にある それが不思議
愛は何処にある いつか不思議

死に急ぐ子供たち 生き惑う大人たち
ちりじりの夢たちが 雨に打たれてた
愛は何処にある それが不思議
愛は何処にある いつか不思議

(女、ふいに起きて、にっこり笑って手を合わせ、奥に消える)

深く息を吐く 溜息の代わりにさ
やり直せるはずのない 人生ってやつにさ

ああ そうだね 僕らは切ない生き物
一人では支えきれない 悲しみをくりかえす
手をつなぐだけでたたそれだけで
涙溢れる夜もあったのに

愛は何処にある それが不思議
愛は何処にある いつか不思議

男、ワインを飲む。ギターを置いて立ち上がり、ワインのボトルを
手に取り注ぎ足そうとするが、すでにボトルは空。
女の退場した方に目をやる。

「DA DA DA」

   
星の数だけ恋をして 月を見上げて歌を詠む
    そんな暮らしにはまり込み 今は場末のバーテンダー
    飲んだあげくの戯れ歌に 涙浮かべる人もいて
    あんた本当はいい人ねって マジで言われて照れ笑い

天使みたいにゃ 生きられないけど いいさ たまには酔いどれ天使
俺のおごりで飲み直そう
DA DA DA  DA DA DA
流れ星でも降らそうか

夢しか見れない人なのねって 女が男に捨て台詞
俺の顔まで睨みつけ バタンとドアを閉めてった
グラス見つめて黙り込む 寂しい男の背中には
さっきの台詞が刺さってた 星の見えない夜だった

天使みたいにゃ 生きられないけど いいさ 今夜は酔いどれちまいな
飲んで絡んで泣くもいい
DA DA DA  DA DA DA
涙雨でも降らそうか

嘘のつけないやつがいい 夢しか見れないやつでいい
水割り2杯で上機嫌 笑い飛ばして大騒ぎ
俺は無口なバーテンダー 話し下手でも聞き上手
始発電車が動くまで この店開けて待ってるぜ

天使みたいにゃ 生きられないけど いいさ 酔いどれ天使
朝が来るまで飲み明かそうぜ
DA DA DA  DA DA DA
あんたの来るのを待ってるぜ

                                              END

                        引用作品   清水邦夫「楽屋」
                                      A・チェーホフ「かもめ」「三人姉妹」

                             作詞    「ミロール」アン・あんどう
                                     「愛は何処にある」「DA DA DA」佐藤三樹夫 

17歳の時、「かもめ」のニーナを演じた。
19歳の時、シャンソンというフランスの歌を知った。
辛かった時、佐藤三樹夫というシンガーを知った。
1999年、「ミロール」の歌詞に出会った
そして
この題名のない一人芝居ができた。
まるでトランプのカードがそろったみたいに…。

                                                        いさらい香奈子

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